現行品だが個人や非常に小さな組織が生産しているレンズの俗称が見当たらず、ここでは便宜的に「インディーズレンズ」と呼ぶことにする*1。今は空前のインディーズレンズ時代で、世界各地で独創的なレンズが日々生み出されている。気になったものを幾つか紹介したい。
1.Omnar Lens
Omnar Lensesは、カメラやレンズを紹介するウェブサイト35mmc.comの運営者であるHamish Gill氏の発案により開発されたレンズである。現状CN26-6(26mm f/6、Mマウント)銘のレンズのみ扱っているが、将来的には35mmや50mmといった通常のレンズも発売する予定だという*2。
今回発表されたCN26-6だが、もともとはCanonのAF-10というコンパクトカメラに使用されていたレンズをMマウントへ換装したものであり、後ほど紹介するMS-OpticsやLight Lens Labのように光学系や鏡胴全てがオリジナルの製品ではないものの、塗装や組み立て、検査まで一貫して英国圏で行われている点は見逃せない。
本レンズのロット数は20〜30個とかなり少なく、なおかつ26mm f/6というスペック*3がまず相当マニアックであるが、それもそのはず当初からニッチな市場を攻めるレンズとして開発されており、万人受けするとは開発者のGill氏含めて誰も考えていないようだ。
2.MS-Optics(宮崎光学)
独創的な設計思想のレンズを数多く展開する宮崎光学についてはここで多く語る必要はないだろう。最近だとAPOQUALIA1.3/35ⅡSLIM というレンズを発表し全国民の度肝を抜いた宮崎光学であるが、以前にもISM 1.0/50というNoctiluxじみた明るさなのに178gという化け物じみたスペックのレンズを開発していることを忘れてはいけない。
しかもSonnetar、Perar、Varioprasmaなど調べればキリがない、実に魅力的なレンズが揃っていることがすぐに理解できたと思う。既存レンズのMマウント改造を出発点とした宮崎光学だが、次第にオリジナルレンズの扱いを増やしていき、今では日本を代表するインディーズレンズメーカーの名を恣にしている。
3.Light Lens Lab
あの日本を代表する百科事典である大辞林や大渡海*4、広辞苑にも取り上げられたLight Lens Labは、Summicron 35mm f/2を発売したことで一躍有名になったが、現状市場で確認できるレンズは僅か2本だ。Summicronの八枚玉を極めて忠実に再現した「周八枚」、ライツが米軍向けに生産したElcan 50mm f/2を再現した「周Elcan」の2種。前者は当時の硝材を使用しているとかで本物以上の写りとの声も聞くし、敢えてElcanを発売すると知ったときは皆不思議に思っただろう*5。
Summicronの50mmは沈胴式〜現行の4thまで比較的入手しやすいレンズだが、Elcanは一部のマニアしか触れられないレアなレンズだからこそ"敢えて"周氏が蘇らせたのだと個人的には思っていて、だからこそ周氏の選球眼には尊敬の念を抱くし足を向けて寝られない。両レンズのいずれも僕は持っていないので素直に買い足したい。
そういえば焦点工房が取り扱いを開始する前、中国のバイヤーに色々教えてもらったことがあった。現行品は鏡胴に漢字で「中國製」と刻印されているが、Made in Chinaと英語銘のものも存在すると聞いたことがあった。噂だと国内向けのレンズは漢字で、輸出向けは英語で刻印されていると。彼によると英語で刻印されているレンズは生産を終了し、現在は漢字版しか製造していないようだ。日本人は漢字が読めてしまうので少々違和感を覚えるかもしれない。
いずれにせよ現行レンズであることから、状態を気にすることなく金を払うだけで手に入る。これは本当に幸せなことだ。そして今後激しく値上がりすることも恐れる必要はない。僕が沈胴Summicronを買ったころは4万円台で、今では10万円ちょっとでしか手に入らないし、M6だってここ数年でグイっと価格が上がった*6し、今やカメラやレンズは完全な嗜好品だ。そんな時代だからこそ、新品を買って永く使いたい。適正な価格で新品を買って、設計者の好みや思想を味わおう。そう遠くない未来にカメラやレンズはスマホに駆逐されるだろうから、敢えて今、インディーズレンズを買おう。