山下達郎 Performance 2022

神奈川県民ホールで開催された山下達郎のツアーチケットが当選したのが先月のこと。長年ラジオで聞いていたサンデー・ソングブックのDJであり、出張時の運転席で必ず流していたアーティスト、ついに齢30にして山下達郎を拝むことができた。山下達郎は一人の人間で、二本の足で歩いて、ギターを弾きながら歌を歌っていた。彼は日本が誇るレジェンドだが、同時に生身の人間であることを再認識した。

当たり前かもしれないがそんな山下達郎は歌が上手かった。声量や音程もそうだが、何より驚いたのは20代の頃に作った曲を原曲キーで、しかも音源通りのクオリティで歌い上げていたことだった。SPARKLEのリフからライブが始まり、アカペラや鍵盤(!)の弾き語りを挟みながら20曲以上演奏する凄まじさよ。

ライブ通して聞いたことのなかった曲は「シャンプー」だけ、それ以外はソラで歌えるほど聴き込んだ曲で、先日発売されたアルバムからは一曲のみ演奏。実に素晴らしいバランスで、彼がライブ職人と呼ばれる所以が分かった気がした。ちゃんと聴きたい曲が、音源通りのクオリティで聴けるライブであった。30年の生涯通してライブへ行った数はそう多くないが、今回のライブは満足度が圧倒的に高かったと言えよう。

楽器に触れる人間の端くれとして、半世紀近く第一線で活躍し続ける彼は尊敬の対象であり、同時に嫉妬を感じてしまう対象でもある。自分がもっと真剣に音楽へ向き合っていたら、ひょっとしたらどこかでステージに立つこともできたのかな。でもきっと技術と情熱と、聴き込んだ音楽の幅と深さ、どれも中途半端な自分じゃあ到底届かない場所なんだろな、と考えていた。

ステージ上のバンドメンバーの演奏を見ながら、意外とドラムはタイトなこと、よく聴けばベースがブリブリなこと、要所要所でサックスがコード間を縫うように走っていたこと、いろいろな気付きがあった。何よりRide on Timeのサックスソロはあまりにも有名で、ライブではどんなフレーズが聴けるのかをとても楽しみにしていた。原曲完コピかオマージュか、それとも全く聞いたことのないフレーズが飛び出すのか。こればっかりは生で聴けて幸せだった。

ライブが終わり、憧れの横浜を浮かれ気分で歩く。夕方まで降っていた雨はいつの間にか止んでいた。関内駅近くに取ったホテルへ荷物を置いて、学生時代にライブを聞きに行ったジャズバーへ向かった。あいにくの満席で不貞腐れ、近くで営業していたラーメン屋へ吸い込まれた。それからビールを飲み、ホテルの風呂に浸かり、ほかほかの身体でベッドへ倒れ込んだ。多幸感とほんの少しの悔しさと、音楽に対する情熱で満たされた一日だった。