再会

会社終わりに電車に飛び乗って到着した谷中はわずか一月ぶりの再訪だった。世間的にはただの水曜日だったが、僕にとっては大学を出て随分と時間が経ち、卒業以来会っていない友人たちと久々に再会した記念すべき夜だった。

合流時には既に酔っていた彼らと缶チューハイで乾杯し、結構寒いにも拘らず飲みながら夜道を散策する。高台にある公園のベンチでくだを巻き、気合を入れて目的の店へ足を踏み入れるも一悶着あり再び夜の街へ繰り出した我々は再び缶チューハイ片手にさっきと同じような話をしながら上野駅へと向かった。

懐かしく感じていたあの散歩だが、正直言って飲酒散歩の記憶はまるで残っていない。当時飲みすぎて記憶を飛ばしただけか、もしくは何らかの理由であの当時の空気があの瞬間だけ復活したのかどうかは知らないが、確かにあの瞬間は旅同好会の部室や、ジムニーの座席や、お月見公園と同じ空気が漂っていた。思い返せば学生生活の嫌な記憶はすっかり蒸発し、楽しかった記憶ばかり思い出すようになった。

人身事故で出席できなかった卒業式の翌日、サークルの3次会か4次会を終え、明るんだ空を感じながら、朝の5時に大学の喫煙所で書いた恥ずかしい文章がある。

いろんな人に会って、そのうちのごく僅かな人と仲良くなって、そのさらにごく僅かな人としか関係は続かないと思ってるけど、それでも一応入ってよかったと思う。ちゃんと卒業できてよかったと思う。

概ね当時の予想は正しくて、当時の交友関係はほぼ断絶していると言って良い。ゼミのメンバーは誰とも連絡を取り合っていないし、あれほど時間を一緒に過ごしたサークルのメンバーも卒業後に再開した人は片手で数えるほど。しかしこの水曜日に再開した友人は、学生生活を通して恐らく最も親密で、最も多くの時間を一緒に過ごし、最も同じ空気(とタバコの煙)を吸った友人だった。立場も住む場所も環境も変わったけど、かつての友人関係は変わらないままだった。

上野公園でベンチの一角を占領し、明日の仕事や帰宅時間を気にしながらも、どこかこの瞬間がずっと続いてほしいと考えていた。でも終電はなくなるし日は昇るし、必ず明日はやってくる。僕もその日は22時半ごろに彼らと別れて帰途につき、タクシーの車内で大きな地震に見舞われ、信号含めた街中が停電で真っ暗になり、水の出ないシャワーを前に呆然としたわけだが、解散後のあの地震も幸いし(?)真に忘れがたい一日になった。しかしその後幸運なことに今後再び彼らと再会し、当時とはまた違う時間を過ごすことが決まった。永遠に失われたはずの青春の再訪だ。なんと表現していいか、とにかくあの夜は最高だった。